読書は、新しい知見を身につける、あるいは心と思考を刺激することで、ひとが生きることに幅を持たせてくれます。その経験を読書感想文として具現化することは、読者自身の理解を深めるだけでなく、他人と思考を共有する手段ともなります。しかし、自分の考えを整理し、それを言葉に表すのは容易ではない場合も多いでしょう。そこで今回は、AI技術、特にChatGPTを活用して、読書感想文を効果的に書く方法について考えてみましょう。ChatGPTは、新たな視点を提示することや思考を整理することで、読書感想文を書くプロセスをサポートし、あなたの力強いパートナーとなる可能性を秘めています。
この記事の目次
ChatGPTとは何か?
ChatGPTは、人間と自然な対話を行うことができる人工知能(AI)の一種です。これはOpenAIによって開発され、大量のテキストデータから言語のパターンを学習し、人間との対話を自然な言葉で行う能力を備えています。その能力は、非常に大規模なニューラルネットワークで、一般的な質問応答システムをはるかに超えています。この高度な能力により、ChatGPTは読書感想文の作成の手助けをすることが可能となります。
ChatGPTの開発背景には、AIが自然言語を理解し、人間とのコミュニケーションを効果的に行うことで、様々なタスクをサポートするという目標があります。ビジネスにおいては、顧客応答システム、文章作成支援などで既に活用されており、教育においては、英会話などの語学教育、さらには作文の学習支援などで活用が期待されており、幅広い分野で注目を集めています。
現に、ソフトバンクグループの孫社長は、「ChatGPTのヘビーユーザーのひとりである」と公言しています。事業計画を練る際にも用いているそうです。
私自身も毎日、何度も何度もチャットGPTと会話をしながらですね、ブレインストーミングをしているようなヘビーユーザーの1人ですけど、すごいです。(ソフトバンクグループ 孫正義社長)
TBS NEWS DIG 2023年6月20日
ところで、読書感想文を書くという行為は、作者の思考を理解し、それを自分の視点から解釈して、自身の感想や主張を表現することにほかなりません。しかし、ときには、感じたことを言語化したり、自分の思考を論理的に構造化することが難しく感じられる場面もあるでしょう。そのようなとき、AIのチカラを借りて、ChatGPTに読書感想文について相談してみるのも良いかもしれません。
次章では、具体的にChatGPTをどのように活用すべきか、その基本を解説します。
ChatGPTを使った読書感想文の基本
ChatGPTを用いて読書感想文を作成する際には、まず最初に本の要約や感じたことを自分の言葉で表現してみてください。これは読書後の感想を整理するための重要な第一歩です。その後、ChatGPTに感じたことや考えたことを共有し、それに対するフィードバックを受け取ることで、自分の思考を深めることができます。
また、あなたが感じたことや理解したことをChatGPTに説明することは、自分の思考を明確化し、表現するスキルを磨く良い機会でもあります。なぜなら、自分が理解した内容を他者(この場合はAI)に説明することは、「教える最良の方法は学ぶことである」という古典的な教育の手法を実践することに他ならないからです。
しかし、ChatGPTの使用には注意も必要です。AIであるChatGPTは確かに大量のテキストデータから学習を行い、多様な文脈やニュアンスを理解する能力を持っています。しかし、絶対的な真実をAIが教えてくれるわけではありません。情報が誤っていることもあります。あくまで参考の一つとして使うべきです。
また、ひとは得てして、楽な方に流されがちです。ChatGPTが答えた文章をそのまま読書感想文に仕上げようなどと、邪(よこしま)な気を起こしてはいけません。公益法人全国学校図書館協議会は、第69回青少年読書感想文全国コンクールの応募要項にて、「盗作や不適切な引用等があった場合、審査対象外になることがあります。」と明記しています。
自分自身の感想や思考を大切にし、それを形成する上での参考材料としてChatGPTを活用しましょう。いわば、「先生や保護者に課題の読書感想文について相談する」のと同じ要領です。
ChatGPTと対話型読書:読書感想文の新しい形
私たちは読書を通じて、様々な視点や人生経験に触れることができます。また、読書で得られた経験を深化させるためには、他者との、あるいは自問自答による議論は大切なプロセスです。かつて「他者」は、先生であったり、親、友人でありました。新たな「他者」として登場したのが、ChatGPTです。ChatGPTを活用すれば、読書感想文のプロセスをさらに豊かなものにすることが可能となるでしょう。
では、どのような手法を取ればよいのでしょうか。5つのステップに表すことができます。
- step1 本の要約や感じたことを自分の言葉で表現する
- step2 自身と異なる視点をChatGPTに問いかける
- step3 自身の感想・主張を述べるための論理展開を自分で構築してみる
- step4 自身の感想・主張を述べるための論理展開をChatGPTに問いかける
- step5 論理展開の構築を完成させ、文章化する
それでは順に、解説します。
step1 本の要約や感じたことを自分の言葉で表現する
まず、step1では、最初に本の要約や感じたことを自分の言葉で表現してみること。メモやタブレットに書き出します。これが、最も大切なことです。これを基に対話を始めるのですから。
step2 自身と異なる視点をChatGPTに問いかける
次に、step2は、先ほど書き出したことをChatGPTに入力して、本書(感想文の底本)へのアプローチ方法や自身と異なる視点を問いかけます。つまり、「アイデアの提案者」「論点の整理者」としてのChatGPTと対話するのです。
step3 自身の感想・主張を述べるための論理展開を自分で構築してみる
step3では、自分自身で、感想・主張を述べるための論理展開を構築してみます。ここでのポイントは、「結論」である感想・主張に繋げるために、step1・2で引き合いにした「本の要約」「本書へのアプローチ(論点)」といった「パーツをどのように配置するか、継ぎ合わせるか」です。
step4 自身の感想・主張を述べるための論理展開をChatGPTに問いかける
これを基に、step4では、「構成の補助者」としてChatGPTを活用します。ChatGPTとあなたは、「『結論』に繋げるための『パーツの配置・継ぎ合わせ方』」について話し合うわけです。こうすることにより、より創造的な思索の時間を得て、一貫した論理展開を構築することができるでしょう。
step5 論理展開の構築を完成させ、文章化する
論理展開のパーツと順序が決まったら、最後に、これらの「柱」に沿って文章化します。ここまでは文章として書き連ねずに、「キーワード」「キーセンテンス」として扱っていたものを、ここで一気に文章化するのです。簡単です。「柱立て」した論理展開に沿って「キーワード」「キーセンテンス」を用いた論点を展開、すなわち、文章化を行うのです。
これらの手順を組み合わせて使用することで、私たちはAIの助けを借りて視野を広げ、論理的な思考を築くことができます。これは、読書感想文を磨く新たな形なのです。
例文:ChatGPTと読書感想文に取り組む
最後に、具体的な例文(ChatGPTに与える指示:これを「プロンプト」と呼びます)を紹介します。今回紹介するのは、「step2 自身と異なる視点をChatGPTに問いかける」で用いるプロンプトです。「step4 自身の感想・主張を述べるための論理展開をChatGPTに問いかける」で用いるプロンプトについては、別な機会に紹介したいと思います。
読書感想文の底本は、太宰治『走れメロス』とします。
プロンプトの例文は以下のとおりです。
プロンプト(例文)
#著者と本の題名
太宰治『走れメロス』
#本の内容
・メロスが自身の身代わりとなった親友の命を助けるためにひたすら走り続ける物語
・途中、川の氾濫による橋の流失や山賊の襲来など、度重なる不運に出遭う
・疲労のあまり、一度だけ、セリヌンティウスを裏切って逃げてしまおうかと思う
#私の考え(メイン)
友情はハッピーエンドばかりではない。
不本意に終わっても「お互いを許せる」か。
友情って「赦し」なのではないかと思った。
#私が考えたこと
セリヌンティウスも、一度は、「メロスが帰ってこない」かもしれないと疑った
けれども、メロスが間に合わなくてもたとえ逃げたとしても、「アイツは精一杯やったはずだ」と処刑されただろうと思う
本作は、間に合ってハッピーエンドであったが、殺されたとしても、行き倒れて死んだとしても、仮に途中で逃げたとしても「許せる」か
上記を踏まえて、この本について考えるべきことを5点挙げよ。
このプロンプトのポイントは
- 見出しをつけて、見出しの冒頭には「#」を付し、コンピュータが理解しやすく記述すること
- 適宜、箇条書きを用いてわかりやすく記述すること
- 「私の考え(メイン)」=「結論・主張」を記述すること
これに対するChatGPTの実際の回答は以下のとおりです。
ChatGPTの回答
この素晴らしい物語から派生する考察ポイントを以下に挙げます:
- 友情の定義:本作では友情が非常に深く掘り下げられています。それは、お互いに信じること、理解すること、そして最も重要なのは、赦すことです。友情の本質は何か、そしてそれは私たちの日常生活にどのように適用されるかについて考えてみましょう。
- 自己犠牲:メロスは友人のために自分自身を危険にさらします。これは究極の自己犠牲と言えます。自己犠牲は常に友情や愛情の表れと言えるのでしょうか?それとも、これらの行動は特定の状況や人間関係に限定されるべきなのでしょうか?
- 信念と疑い:物語では、メロスとセリヌンティウスがお互いの行動に対して疑いを持つ場面があります。それぞれの立場から、自分たちの信念を試す重要な瞬間と言えます。私たちが自分の信念を試されたとき、どのように対応するべきでしょうか?疑いと信念は常に共存するものなのでしょうか?
- 倫理的ジレンマ:物語は、人間の倫理的ジレンマについての重要な視点を提供します。メロスは自分の命と友人の命を天秤にかけなければなりません。倫理的ジレンマに直面したとき、私たちはどのように判断を下すべきでしょうか?
- ハッピーエンドと現実:「走れメロス」は、物語の最後にハッピーエンドを迎えますが、現実にはそうはいかない場合もあります。私たちはどのようにして、希望や信念を持ち続け、厳しい現実に立ち向かうべきでしょうか?
ChatGPTとの対話は、多くのヒントを与えてくれます。いかがでしょう。ChatGPTを「アイデアの提案」「論点の整理」として活用できることがお分かりいただけたでしょうか。ChatGPTとの対話が、読書感想文を書くプロセスの一助となれば幸いです。
走れメロス
太宰治 著
出版 新潮社
ISBN 4101006067