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読書感想文の書き方_文庫表紙

【作文の基礎】読書感想文で養われる「論理的に伝える力」が社会で役立つワケ

読書感想文。夏休みの宿題として多くの人が経験する、なかなか面倒なラスボス級の宿題。しかし、「なぜ、わざわざ読書感想文を書く必要があるの?」と疑問に感じたことはありませんか?

読書感想文が、単なる読書記録であるはずはありません。文部科学省の学習指導要領を紐解けば、その重要性が認識できるはず。読書感想文に取り組むことは、社会に出てからも通用する普遍的な文書スキルを育むための、非常に優れた訓練なのです。この記事では、読書感想文が持つ「本当の意義」を、小中学校・高校の学びの視点から解説します。

まず、文章には大きく分けて2つの種類があります。

一つは「記録する文章」です。これは、出来事や事実を客観的に、正確に書き留めることを目的とします。例えば、議事録や実験レポートなどがこれにあたります。

もう一つは、「伝える文章」です。これは、自分の考えや感情を読み手に伝えることを目的とします。読書感想文は、この「伝える文章」の代表例です。読み手に「この本に関して、私はこんな考えを持ったんだ」と伝えるために、自分の思考を整理し、言葉を選び、論理的に構成する必要があります。読書感想文は、この「伝える文章」を学ぶための、基礎的かつ実践的な訓練の場なのです。

文部科学省の学習指導要領(国語科)では、小中学校・高校を通じて「書くこと」の領域で、「目的や意図に応じて、自分の考えを効果的に表現する能力」の育成が目標とされています。

そして、教員は、次のように指導することが求められています。

⑴ 書くことに関する次の事項を身に付けることができるよう指導する。

ア 目的や意図に応じて,日常生活の中から題材を決め,集めた材料を整理し,伝えたいことを明確にすること。

イ 書く内容の中心が明確になるように,段落の役割などを意識して文章の構成や展開を考えること。

ウ 根拠を明確にしながら,自分の考えが伝わる文章になるように工夫すること。

(以下略)

中学校学習指導要領(平成29年告示)

(1)書くことに関する次の事項を身に付けることができるよう指導する。

ア 実社会や学術的な学習の基礎に関する事柄について,書き手の立場や論点などの様々な観点から

情報を収集,整理して,目的や意図に応じた適切な題材を決めること。

イ 情報の妥当性や信頼性を吟味しながら,自分の立場や論点を明確にして,主張を支える適切な根

拠をそろえること。

ウ 立場の異なる読み手を説得するために,批判的に読まれることを想定して,効果的な文章の構成

や論理の展開を工夫すること。

エ 多面的・多角的な視点から自分の考えを見直したり,根拠や論拠の吟味を重ねたりして,主張を

明確にすること。

オ 個々の文の表現の仕方や段落の構造を吟味するなど,文章全体の論理の明晰さを確かめ,自分の

主張が的確に伝わる文章になるよう工夫すること。

(以下略)

高等学校学習指導要領(平成30年告示)

読書感想文は、「自分の考えを効果的に表現する能力」を身につけるための、以下のような5つの力を統合的に養うことができます。

  • 読解力: 本の内容を深く理解し、主題や作者の意図を正確に読み取る力。
  • 思考力: 本の内容と自分の経験や考えを結びつけ、新しい発見や意味を見出す力。
  • 構成力: 読み手を意識し、序論・本論・結論という論理的な順序で文章を組み立てる力。
  • 表現力: 語彙や表現を工夫して、自分の考えをより的確に、魅力的に伝える力。
  • 自己省察力: 本という「他者」の視点に触れることで、自分自身を客観的に見つめ直し、考えを深める力。

これらの力は、感想文という宿題を、単に書き上げるというだけでなく、未来のあらゆる場面で必要とされる「論理的思考力」や「表現力」の基盤となります。

「たかが感想文」と思うかもしれませんが、そこで培われた「伝える文章」の力は、学齢期を終えた後も、さまざまな重要な局面でその真価を発揮します。

  • 大学受験での「志望動機書」や「小論文」: 「なぜこの大学で学びたいか」という主張を、高校生活の経験や将来の展望を根拠として論理的に述べる必要があります。これは、読書感想文で養った「主張と根拠の組み立て方」が直接活かせる場面です。
  • 大学・大学院での「卒業論文」や「レポート」: 膨大な先行研究を読み解き(読解力)、自分の研究テーマを立て(思考力)、論理的な構成で長文を書き上げる(構成力)。読書感想文で学んだスキルは、そのまま学術的な文章作成へと発展します。
  • 社会人になってからの「企画書」や「稟議書」: 「この企画を実行すべきだ」という主張を、市場データや費用対効果を根拠として、上司や経営者を説得する必要があります。これは「読み手を納得させる」という「伝える文章」の究極の目的が求められる場面です。一般的に、これらは経済活動の一環として行われ、当然にして「お金」が動くことになります。

このように、読書感想文は、人生の様々な局面で文章を通じて他者と円滑なコミュニケーションを図るための、一生モノのスキルを育む訓練なのです。

「伝える文章」において最も重要なのは、「あなた自身の主張」と「論理的な構成」です。読書感想文を書く際には、まず、「何を主張したいのか」を充分に見つめることが最も大切です。次に、「どのように説明すれば相手を納得させられるのか」。以下の基本構造を意識しながら、より説得力のある文章を組み立ていくことになります。

  1. 序論: 本の概要と、文章全体で最も伝えたいこと(主張)を簡潔に示します。
  2. 本論:
    • 本の内容で最も印象的だった箇所を要約、または引用します。
    • その箇所を読んだことで、どのような思考を巡らせたのか、自分の行動がどう変わったかを具体的に述べます。
    • 本から得た学びをさらに深掘りし、社会や他者との関係にまで広げて考察します。
  3. 結論: 文章全体の要点をまとめ、自分の主張を再確認するとともに、今後の展望や課題を述べます。

この構造を上手に活用することで、漠然とした「感想」が、読み手に伝わる明確な「メッセージ」へと変わるでしょう。

読書感想文は、面倒な宿題ではなく、「書く力」という一生の財産を築くための大切な学びの機会です。ぜひ、これを機にその意義を再認識し、文章作成に取り組んでみてください。

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