優秀作品に学ぶ

読書感想文の書き方_文庫表紙

高校生の優秀作品に学ぶ読書感想文の書き方『同志少女よ、敵を撃て』

読書感想文は、高校生の感受性を育むとともに、自身の思考を表現し、相手に伝える技術を磨くために有意義な課題の一つです。この記事では、高校生が自分の思いやその考えをしっかりと伝えられるような読書感想文の書き方について述べます。優秀作品を参考にして、表現テクニックや構成テクニックを取り入れることで、高校生の読書感想文のレベル向上に結び付くよう、そのヒントを提供します。まずは一般的な構成例から、入賞した高校生の優れた作品まで、順に紹介していきましょう。

なお、今回取り上げる優秀作品は、
第68回青少年読書感想文全国コンクール 文部科学大臣賞<高等学校の部>受賞作品 です。
全文はコチラからご覧ください。当サイトでは、著作権に配慮し、全文の掲載を控えます。

受賞者が読んだ本は、
「同志少女よ、敵を撃て」(早川書房)逢坂冬馬・著 です。

『同志少女よ、敵を撃て』表紙

高校生が使える読書感想文の一般的な構成例

読書感想文は、本を通じて得た印象や思考を自分なりに言語化し、他者に伝える練習の一つです。高校生が使える読書感想文の一般的な構成例をここで解説します。

まず、読書感想文は大きく分けて三つの部分で構成されます。

  1. 導入:
    本のタイトルや著者、内容の簡単な紹介を行います。ここで読者にどの本について書くのかを理解してもらうための情報を提供します。また、どのような視点やテーマで本を読み解いたのかを明示すると、その後の感想部分とのつながりがスムーズになります。
  2. 本論:
    導入で紹介した本の内容を深堀りし、自分自身の考えや感想を具体的に書き出します。ここで大切なのは、自分が感じたこと、思ったことを率直に、具体的に表現することです。例えば、本の登場人物やストーリーから感じたこと、学んだこと、考えさせられたことなどを述べます。
  3. 結論:
    自分がこの本を読んでどのような影響を受けたのか、また、これからどのように考え行動していくのかを述べます。この部分は全体を締めくくるものであり、自分自身の変化や成長を読者に伝える場です。

これら三つの部分が一体となり、自分の感想を読者に伝えるための「骨組み」を構成します。私はこの「骨組み」を構成することを、「柱立て」と呼んでいます。この骨組みを理解し、それぞれの部分に具体的な内容を埋めていくことで、一つの読書感想文が形成されます。

これらの基本的なステップに沿って、次のセクションでは高校生が書いた優秀作品から学びを得ることにしましょう。具体的な作品を通じて、読書感想文の書き方の詳細を解説します。

高校生の優秀作品に学ぶ読書感想文の書き方:テーマの選び方

テーマの選び方は、読書感想文の質を左右する重要な要素です。今回は、高校生の優秀作品から、テーマの選び方について学んでみましょう。なお、本作品は、「同志少女よ、敵を撃て」(早川書房)について書かれたものです。

この入賞作品の筆者は、現在進行形のロシア・ウクライナ間の紛争というリアルタイムの出来事を取り上げています。本と直接的なつながりがあるかどうかは別として、感想文のテーマが現代の具体的な問題に関連していると、タイムリーであるために、読者の関心を引くことができます。このような選び方は、読者にとって身近な問題を扱っているため、理解を深めるきっかけを提供するとともに、自分たちの世界と直結する問題について考える機会も生まれます。

また、具体的な事件を取り上げることで、筆者自身の考えや視点を明確に示すことができます。例えば、この優秀作品では、ロシア・ウクライナ間の紛争に触れたことで、筆者がその問題にどのように思いを抱いているのか、何を大切に考えているかを読者に伝えることができます。

「時事問題に関するテーマを選ぶ」という選び方は、高校生が読書感想文を書く際の参考になるでしょう。まず、自分が興味を持っている、または考えている時事問題についてのテーマを見つける。そして、それについて読書を通じて考察し、自分なりの視点を示すのです。これにより、読書感想文はただの本の紹介から一歩進んだ、自分自身の思考や視点を表現する場となります。

Point:「時事問題」をテーマに選ぶ

現在、 ロシア ・ウクライナ間で、 戦争の悲劇が繰り返されている。 その死者は、(後略)

第68回青少年読書感想文全国コンクール 文部科学大臣賞<高等学校の部>受賞作品

高校生の優秀作品に学ぶ読書感想文の書き方:表現のテクニック

この優秀作品で目を引くのは、「具体的な描写」「感覚の共有」「登場人物の内面描写」です。

受賞者は、物語を紹介する段落で、物語の主人公セラフィマたちが経験する戦場でのシーン(物語中のシーン)を具体的に記述しています。「頭のすぐ近くを銃弾が通り過ぎ、先程まで人間であったものが瞬きの間にただの肉塊に姿を変える」という描写は、視覚的かつ聴覚的感覚を呼び起こすことにより、戦争の恐怖を読者に伝え、感覚を共有しています。このような五感を活かした具体的な描写を織り交ぜることで読者に強烈なイメージを与えるテクニックは、読書感想文の表現力を高める手段として有効です。

また、受賞者は登場人物の内面描写にも力を入れています。主人公の内面に生じる、目指した「目的」と見失いそうになる理性を対比し、その矛盾を読者に伝えています。特に、セラフィマやミハイルなどの内面描写は、読者に彼らの心情を理解させ、物語の本質に目を向けさせるのに寄与しています。

例えば、セラフィマの少女らしい一面と戦場での行動、そして信念と現実の矛盾は、戦争の複雑さと人間の深層心理を浮き彫りにしています。幼なじみミハイルを撃つシーンも効果的に紹介しています。女性を軽んじないと誓った心優しきミハイルが、ロシア人女性を犯すドイツ兵と同様の過ちを犯すようになることに、「戦争が持つ“悪意”」に対して注意深い洞察を行なっています。

高校生が読書感想文を書く際には、このように優秀作品から学ぶべき表現のテクニックを見出し、これらを活用することをおすすめします。物語のキャラクターの視点で描写を行い、具体的なイメージから感情を共有し、読者に強い印象を与える。登場人物の内面描写から、物語で生じる心理の対比と矛盾を引き出す。これらのテクニックを応用して、自分自身の読書感想文の表現力を高めてみてください。

Point:視覚的かつ聴覚的感覚を呼び起こす具体的な描写

頭のすぐ近くを銃弾が通り過ぎ、 先程まで人間であったものが瞬きの間にただの肉塊に姿を変える。 私は思わず息をつまらせながら(後略)

第68回青少年読書感想文全国コンクール 文部科学大臣賞<高等学校の部>受賞作品

Point:物語の本質に目を向けた登場人物の内面描写

人を好きになったり、 片づけが苦手だったり、 少女らしい一面を当たり前に持つ彼女ら(中略)が戦争に呑まれ、 スコアに縛られそうに(後略)

母の仇を討つという明確な意志と全ての女性を救うという確かな信念を持っていたセラフィマでさえも、 戦争の酷薄な空気の中で自分を見失い(後略)

(前略)彼女にとって最後の戦場で、彼女に女性を軽んじないと誓った幼なじみミハイルを撃つ。彼もまた、この戦争の野卑な空気にあてられて、(中略)同様の過ちを犯した(後略)

第68回青少年読書感想文全国コンクール 文部科学大臣賞<高等学校の部>受賞作品

高校生の優秀作品に学ぶ読書感想文の書き方:理論の展開と結論への進め方

高校生の読書感想文において、優秀作品はどのような理論展開と結論への進め方をしているのでしょうか。引き続き、前章までの受賞作品で分析してみましょう。文章構成の全体像は、次のとおりです。

導入

「具体的な描写」で読者との「感覚の共有」を図って、本の内容を紹介する。

頭のすぐ近くを銃弾が通り過ぎ、 先程まで人間であったものが瞬きの間にただの肉塊に姿を変える。 私は思わず息をつまらせながら(後略)

本論

登場人物の内面描写 1

“戦争は人を変える”。

人を好きになったり、 片づけが苦手だったり、 少女らしい一面を当たり前に持つ彼女ら(中略)が戦争に呑まれ、 スコアに縛られそうに(後略)

登場人物の内面描写 2

男女の性暴力に対する認識の違い

(前略)彼女にとって最後の戦場で、彼女に女性を軽んじないと誓った幼なじみミハイルを撃つ。彼もまた、この戦争の野卑な空気にあてられて、(中略)同様の過ちを犯した(後略)

本書のタイトル、 「同志少女よ、 敵を撃て」この “敵”とは何を指すのか

【ここでの問題提議が次の展開に活きている】

本論(ハイライト)

本書における “敵” とは、 戦争が持つ “悪意” だ。

(「戦争が持つ “悪意” 」で、)戦争に参加する以前の彼ら彼女らとは、(人間性が)まったく懸け離れた自分に上書きされて

結論

現在、 ロシア ・ウクライナ間で、(後略)

【時事問題に触れる】

看護師ターニャは、“治療するという意志が自らにある限り、 そこに敵味方の区別はない”

殺す、 戦う、 そんな選択肢の無意味さに一秒でも早く一人でも多くの人が気付き、 これ以上彼ら彼女らの戦争で命が散ることのないように祈る。

第68回青少年読書感想文全国コンクール 文部科学大臣賞<高等学校の部>受賞作品

優秀作品の理論の展開から結論への進め方は、いかがでしたか。
登場人物の内面描写を行いながら、「『同志少女よ、 敵を撃て』この “敵”とは何を指すのか」と問題提議をし、「戦争が持つ “悪意” 」について展開する手法は見事です。
さらに、結論としての結びの一文は、本書テーマへの深い理解を示すとともに、読者に強烈な印象を与えるものでありました。

優秀作品の成功ポイントを取り入れる!高校生向け読書感想文の書き方

ところで、受賞者は、冒頭からつらつらと書き連ねて、結論まで書き上げたのでしょうか。本書を読んで感じたこと、考えたこと、あるいは嫌悪感を感じたことから、まずは「自分の考え」(結論)を決める。そして、その「自分の考え」を伝えるために、考えたこと感じたことを組み合わせていったのではないでしょうか。

「自分の考え」を伝える作文というものは、考えたこと感じたことを、パーツとパーツとして理論的に組み合わせる作業に喩えられるかもしれません。

とはいえ、読書感想文を書くとき、一体どのようなアプローチをすれば、高校生が自分の感想を魅力的に伝え、独自性を発揮できるのでしょうか? 前述の入賞作品から得られる示唆をもとに、具体的な方法を提案します。

ステップ1 「結論」を決める

まず、最初のステップは書く内容、つまり先に「結論」を決めることです。読書感想文の結論は、自分がその本から何を学び、どのように感じたかを明確に述べる箇所です。したがって、ここで自身の主張を明確にしましょう。結論は読書前から決まっていても構いません。もちろん、読書をしたことによって新たな考えを発見できたならば、それに越したことはありません。

ステップ2 「柱立て」で、理論展開の方向性を決める

次のステップは、「柱立て」です。私は、自分の結論に向けて理論を展開する枠組みを作ることを「柱立て」と呼んでいます。優秀作品では、結論につながる主要なパーツが実に見事に配置されていました。ここで重要なのは、「自分の考え(結論)を述べるために2つ程度のパーツで継ぐ」ということです。本書を読む中で感じたこと、考えたこと、嫌悪感を抱いたことでも構いません。それらのパーツの中から2つ程度をどのように並べて、どのように説明すれば「自分の考え」を主張できるのか。自分の読書感想文の中で順序を並べ替えたり、アプローチの仕方を変えてみたりします。

ステップ3 文章として言語化する

最後に、これらの「柱」をもとに、自分の主張、つまり結論に向けて理論を展開していきます。各「柱」に基づいて、言語化するということです。読者を納得させるために説明すると捉えれば良いでしょう。「柱立て」の際には、あまり文字数を機にする必要はありません。「柱立て」の時点で文章を組み立ててしまおうとすると、後から「字数を膨らましにくい」などということも起こり得ます。柱を立て、どの手順で理論を展開するかが決まったら、必要なことをしっかりと説明しましょう。書きましょう。書き上げた時に文字数が多ければ、推敲の段階で減らせば良いのです。無駄を削ぎ落とした文章は、洗練された文章となります。

これらのステップを経ることで、高校生は自身の読書感想文の書き方を確立することができるでしょう。読書感想文を魅力的にし、独自性を発揮するコツはたくさんあります。柱立てをして理論展開できるようになれば、今後、いろいろな技法を取り入れることができるでしょう。

関連記事

  1. 読書感想文の書き方_文庫表紙

    中学生の優秀作品に学ぶ読書感想文の書き方

  2. 読書感想文の書き方_文庫表紙

    高校生の優秀作品に学ぶ読書感想文の書き方

PAGE TOP