優秀作品に学ぶ

読書感想文の書き方_文庫表紙

高校生の優秀作品に学ぶ読書感想文の書き方

読書感想文は、高校生の感受性を育むとともに、自身の思考を表現し、相手に伝える技術を磨くために有意義な課題の一つです。この記事では、高校生が自分の思いやその考えをしっかりと伝えられるような読書感想文の書き方について述べます。優秀作品を参考にして、表現テクニックや構成テクニックを取り入れることで、高校生の読書感想文のレベル向上に結び付くよう、そのヒントを提供します。まずは一般的な構成例から、入賞した高校生の読書感想文の分析まで、順に紹介していきましょう。

なお、今回取り上げる優秀作品は、
第69回青少年読書感想文全国コンクール 内閣総理大臣賞<高等学校の部>受賞作品 です。
全文はコチラからご覧ください。当サイトでは、著作権に配慮し、全文の掲載を控えます。

受賞者が読んだ本は、
「ラブカは静かに弓を持つ」(集英社)安壇美緒・著 です。

表紙_ラブカは静かに弓を持つ

高校生の優秀作品に学ぶ理論の展開と結論への進め方

読書感想文は、本を通じて得た印象や思考を自分なりに言語化し、他者に伝える練習の一つです。高校生にとって使いやすい代表的な文章構成は、次の3つです。

  • 起承転結
  • 序破急
  • PREP法

これらの詳細な解説はここでは割愛します。別に解説したこちらをご覧ください。

なお、この優秀作品は、序破急で書かれています。

  •  – 導入部分。読書感想文の始まりです。
  •  – 展開部分。「論の展開」を行います。自身の感想や意見を述べます。
  •  – まとめ。「展開した論」をまとめ上げます。つまり、「論の最終的な結論」です。

しかし、読書感想文を書く際には、起承転結や序破急などという文章構成の「型」をあまり気にしない方が、実は文章を書きやすいです。「文章のまとまり」くらいに考えてください。
すると、この優秀作品は、大きく分けて三つの「文章のまとまり」で構成されていることが見えてきます。

  1. 導入:
    本のタイトルや著者、内容の簡単な紹介を行います。ここで読者にどの本について書くのかを理解してもらうための情報を提供します。また、どのような視点やテーマで本を読み解いたのかを明示すると、その後の感想部分とのつながりがスムーズになります。
  2. 本論:
    導入で紹介した本の内容を深堀りし、自分自身の考えや感想を具体的に書き出します。ここで大切なのは、自分が感じたこと、思ったことを率直に、具体的に表現することです。例えば、本の登場人物やストーリーから感じたこと、学んだこと、考えさせられたことなどを述べます。
  3. 結論:
    自分がこの本を読んでどのような影響を受けたのか、また、これからどのように考え行動していくのかを述べます。この部分は全体を締めくくるものであり、自分自身の変化や成長を読者に伝える場です。

これら三つの大きな「文章のまとまり」の中で、自分の感想を読者に伝えるための「骨組み」を組み立てるのです。私はこの「骨組み」を構成することを、「柱立て」と呼んでいます。この骨組みに沿って、具体的な意見や具体例などを挙げていくことで、読書感想文を完成させていくこととなります。

それでは、この優秀作品の「骨組み」を見ていきましょう。

文章の骨組み(柱立て)

  1. 導入:
    本の紹介/表紙のイラストの印象/本を選んだ理由
    物語の印象/登場人物の印象

    【ねらい】読者にこの本について理解してもらうための情報を提供しています。登場人物の印象を述べることで、この後に登場人物の内面を観察し、自身の内面を探究するための架け橋としています。
  2. 本論:
    登場人物と自信を重ねる/登場人物と自身の比較(具体的なエピソードを交えて)/自身の内面探究/物語から印象的な場面の紹介/自身の心の変化を描写
    もう一つ、心に残った箇所/自身の内面探究/「他人を信じる」ことについて、自身の「論の展開」
    【ねらい】本の一場面を具体的に引用し、さらに、自分自身の内面を探究することで、「論の展開」に説得力を持たせます。そのためにも、考えや感想は具体的に表現することが大切です。
  3. 結論:
    最後に、〜/「信頼関係」について、自身の考えをまとめ/読者の印象に残る結び
    【ねらい】本論での「論の展開」を受けて、この本を読んでどのような影響を受けたのか、また、これからどのように考え行動していくのかをまとめます。さらに、印象的な「結び」で、全体の締めくくりとしたい。

太字の部分が「骨組み」です。
骨組みを組み立てるときは、「文」で組み立てるより、「何を書くか」を意識して組み立ててください。

Point:骨組みは、「文」ではない。「何を書くか」

  • 「骨組み」を「文」で考えると、「文と文を繋げるだけ」に陥りがちです。
  • 「何を書くか」で考えると、「さらに詳しく」具体例やエピソード、論の展開など、「文章を膨らます」ことがやりやすくなります。

高校生の優秀作品に学ぶテーマの選び方

テーマの選び方は、読書感想文の質を左右する重要な要素です。それでは、この高校生の優秀作品から、テーマの選び方について学んでみましょう。

この入賞作品の筆者は、「自身の内面探究」をテーマに選びました。「内面探究」は、ひとが成長する過程で大切な思考活動です。それゆえに、読書感想文では、よく用いられるテーマです。また、評価されやすいテーマともいえます。

このテーマを選ぶときのコツは、「普段、誰かと話をするような内容ではないこと」。例えば、次のようなものが挙げられます。

テーマ:「自身の内面探究」

  • 人付き合いに関する悩み
  • 周囲の人との価値観の違い
  • コンプレックス(容姿・才能・成績・家庭環境 など)
  • 「なぜ生きるのか」「何のために生きるのか」
  • 自身の「存在」とは

「自身の内面探究」というテーマは、「知られたくない自分」を吐露することになりそうで、高校生にとって気の進まないテーマかもしれません。けれども、ひとの悩みは意外と似たものであったりします。それがゆえに、「自身の内面探究」は「普遍的なテーマ」なのです。
恥ずかしがることではありません。優秀作品はどのように「自身の内面探究」を行なったのか。例文として挙げてみましょう。

「自身の内面探究」例文1

読み進めながら私は、橘と自分を重ねずにはいられなかった。彼とは程度が違うかもしれないが、私もいろんな人たちを騙しているような気がしたり、他人を信じることに難しさを感じたりすることがよくあるからだ。そしてこれは、人間ならば誰しも感じたことのあるものではないだろうか。

第69回青少年読書感想文全国コンクール 内閣総理大臣賞<高等学校の部>受賞作品 

自身の悩みを打ち明けて、「内面探究」のきっかけとしています。
そして、その悩みを「人間ならば誰しも感じたことのあるもの」として、普遍性を持たせています。

「自身の内面探究」例文2

(前略)私は、人を頼ることがどうしてもうまくできない。友達が自分に頼み事をしてくると、自分は頼られているのだと嬉しくなって引き受ける。でも自分のこととなると、小さな頼みすら素直に言い出すことができない。これを聞いて彼らは自分に対してどんな感情を抱き、どんな反応をするのだろう。自分の悩み事に人を巻き込むのは申し訳ないし、当事者ではない人に解決策を求めるのは恥ずかしい。そもそも話を聞いてもらって、何かが変わるのだろうか。そんな風に思うからだ。それは他人を信じきれずまだ自分の中に閉じこもっているということにほかならない。

第69回青少年読書感想文全国コンクール 内閣総理大臣賞<高等学校の部>受賞作品 

さらに「内面探究」を深めていきます。
自身の「課題」を挙げ、自問し、分析しています。


高校生の優秀作品に学ぶ表現テクニック

この優秀作品で目を引くのは、「深い自己洞察」「効果的な引用」「効果的な書き出し」と「効果的な結び」です。

受賞者は、自身の経験や感情を登場人物と重ね合わせることで、深い自己洞察を展開しています。自身の課題を見極め、対峙しています。さらに、「透明な壁の向こうと自分との間には、著しい段差がある」といった効果的な引用を用いることで、物語のテーマと自己の経験を結びつけ、読者に強い印象を与えています。

また、受賞者は、書き出しで具体的で鮮明なイメージを用いて、読者の興味を引き付けることに成功しています。結びにおいても、自己成長と今後の行動に対する決意を力強く表現し、読者に強いメッセージを伝えています。

具体的に、例文として見てみましょう。

表現テクニック 例文1:深い自己洞察

(前略)他人を信じるとはどういうことだろう。

私にとって他人を信じるとは、自分の一部を他人に託すということだ。一人では抱えきれないことを、他人に手助けしてもらいながらどうにか自分の中に戻し、また歩き出す。

ではどうすれば、他人を信じられるようになるのか。

第69回青少年読書感想文全国コンクール 内閣総理大臣賞<高等学校の部>受賞作品 

受賞者自身の心の葛藤を率直に表現しています。また、他人を信じることの難しさや、自分を他人に素直に伝えることへの恐怖についても深く考察しています。
これにより、読者は受賞者の感情や思考の流れを理解しやすくなり、共感を得やすくなっています。

表現テクニック 例文2:効果的な引用

もう一つ、心に残った箇所がある。

「透明な壁の向こうと自分との間には、著しい段差がある。世界のありのままの姿を、オートマティックに捻じ曲げてしまう分厚い壁。
(中略)
恐れの向こう側にある。」

第69回青少年読書感想文全国コンクール 内閣総理大臣賞<高等学校の部>受賞作品 

受賞者は、「心に残った箇所」として、本の文章をそのまま引用し、深く噛みしめます。この引用により、この後に続く、さらなる自己洞察が重みを待つことになります。

表現テクニック 例文3:「書き出し」と「結び」

書き出し

ラブカ。水深千メートルに生きる醜い深海魚の名だ。大きく裂けた口に、虚ろな目。その細長い体は、魚というより獰猛な蛇を思わせる。本書の表紙のイラストに描かれたそれは、口を開けて笑っているように見えて不気味な印象を受ける。そんな題名とイラストに惹かれて、本書を読み始めた。

第69回青少年読書感想文全国コンクール 内閣総理大臣賞<高等学校の部>受賞作品 

具体的で鮮明なイメージから始まり、読者の興味を引きます。その後の「そんな題名とイラストに惹かれて、本書を読み始めた。」という部分で、なぜこの本を手に取ったのかを簡潔に説明しています。
読者を引き込むための効果的な導入に成功しています。

結び

(前略)相手に自分の世界観を届けるには、どうすることが最善か。そして、相手からも信頼されるために、私はどんな言葉をかけることができるのか。私は本書を通して、今まで分からなかったその答えを実感しつつある。そして私は今日も、想像の小窓を開ける。

第69回青少年読書感想文全国コンクール 内閣総理大臣賞<高等学校の部>受賞作品 

自身の洞察をもとに他人との信頼関係や想像力の重要性についてまとめています。
「私は本書を通して、今まで分からなかったその答えを実感しつつある。そして私は今日も、想像の小窓を開ける。」という部分で、自己成長と今後の行動に対する決意を表現しています。


優秀作品の成功ポイントを取り入れる!高校生向け読書感想文の書き方

ところで、受賞者は、冒頭からつらつらと書き連ねて、結論まで書き上げたのでしょうか。本書を読んで感じたこと、考えたこと、あるいは嫌悪感を感じたことから、まずは「自分の考え」(結論)を決める。そして、その「自分の考え」を伝えるために、考えたこと感じたことを組み合わせていったのではないでしょうか。

「自分の考え」を伝える作文というものは、考えたこと感じたことを、パーツとパーツとして理論的に組み合わせる作業に喩えられるかもしれません。

とはいえ、読書感想文を書くとき、一体どのようなアプローチをすれば、自分の感想を魅力的に伝え、説得力のある論の展開ができるのでしょうか? 前述の入賞作品から得られる示唆をもとに、具体的な方法を提案します。

ステップ1 「結論」を決める

まず、最初のステップは書く内容、つまり先に「結論」を決めることです。読書感想文の結論は、自分がその本から何を学び、どのように感じたかを明確に述べる箇所です。したがって、ここで自身の主張を明確にしましょう。結論は読書前から決まっていても構いません。もちろん、読書をしたことによって新たな考えを発見できたならば、それに越したことはありません。

ステップ2 「柱立て」で、理論展開の方向性を決める

次のステップは、「柱立て」です。私は、自分の結論に向けて理論を展開する枠組みを作ることを「柱立て」と呼んでいます。優秀作品では、結論につながる主要なパーツが実に見事に配置されていました。ここで重要なのは、「自分の考え(結論)を述べるために2つ程度のパーツで継ぐ」ということです。本書を読む中で感じたこと、考えたこと、嫌悪感を抱いたことでも構いません。それらのパーツの中から2つ程度をどのように並べて、どのように説明すれば「自分の考え」を主張できるのか。自分の読書感想文の中で順序を並べ替えたり、アプローチの仕方を変えてみたりします。

ステップ3 文章として言語化する

最後に、これらの「柱」をもとに、自分の主張、つまり結論に向けて理論を展開していきます。各「柱」に基づいて、言語化するということです。読者を納得させるために説明すると捉えれば良いでしょう。「柱立て」の際には、あまり文字数を機にする必要はありません。「柱立て」の時点で文章を組み立ててしまおうとすると、後から「字数を膨らましにくい」などということも起こり得ます。柱を立て、どの手順で理論を展開するかが決まったら、必要なことをしっかりと説明しましょう。書きましょう。書き上げた時に文字数が多ければ、推敲の段階で減らせば良いのです。無駄を削ぎ落とした文章は、洗練された文章となります。

これらのステップを経ることで、誰でも自身の読書感想文の書き方を確立することができるでしょう。読書感想文を魅力的にし、説得力のある作文を書くコツはたくさんあります。柱立てをして理論展開できるようになることは、一番の近道となります。

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